コロナワクチンは本当に効く?その2

変異種の脅威

コロナウィルス英国型変異種の脅威にさらされている目下の日本。インドでは二重変異が原因なのか、昨年秋ピーク時の1日10万人弱から一時は十分の一まで減少した新規感染者が、現在では過去最高値を連日更新。日に30万人が感染しようという勢いです。ワクチン接種が進むアメリカでも、ミシガン州では英国型変異種の影響からか、ここのところ1万人前後の新規感染者に苦しんでいます。そのなかには、2度のワクチン接種を済ませた人の感染、いわゆるブレークスルー感染も起きています。ワクチンは変異種には効かないのでしょうか。

 

今や日本でもお馴染みになったアメリカ国立アレルギー感染症研究所所長のアンソニー・ファウチ博士によれば、現在使用されているワクチンは充分に変異種に対応できているとのこと。アメリカの現状を分析し、ワクチン接種のスピードとウィルスの広がりが僅差のレースを争っている状況にあるといいます。

 

そして、19日付のニューヨークタイムズ紙では、私たちのワクチンに関する疑問に答える記事が掲載されています。("How Good Are the Vaccines at Protecting Us From the Coronavirus?" New York Times, late ed., 19 Apr. 2021: A8.)以下、同記事を参考にまとめてみます。

 

英国型変異種

現在、日本で猛威を振るっている英国型変異種は、細胞に付きやすく、感染力が強く、さらに症状が悪化するスピードも速いようです。また、感染者が吐き出すウィルス量は従来型に比べかなり多く、感染力も長期に渡り維持されます。

 

幸いにも、ファイザー、モデルナ、アストラゼネカジョンソン・エンド・ジョンソン、さらにロシア製ワクチン・スプートニクも英国型変異種には有効と言われています。ただし、英国型変異の起源イギリスで感染者が急減しているのは、ワクチンとロックダウンの相乗効果。公衆免疫がつくまでは、限られたケースとはいえワクチン接種者も感染の危険にさらされます。一方で、ワクチン効果によって重症化することはごく希で、人によっては無症状で収まるとのことです。

 

南アフリカ型変異種

149人のブレークスルー感染者を対象とするイスラエルでの調査では、南アフリカ型変異種の症例が多く見られるようです。ただ、2回目の摂取を済ませてから2週間を経過した後のブレークスルー感染は報告されていません。イスラエルでは、ファイザー製ワクチンが主として使われています。

 

また、血栓が起きる副作用の問題で一時使用停止となったジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンですが、南アフリカ型変異種に対して強い抑制効果を示しています。(現在欧州では使用再開となり、アメリカでも再開される見込み。)

 

ウィルスの変異は各地で起きており、ニューヨーク型、カリフォルニア型もあるようですが、感染力は従来型と変わらないようです。一方、南アフリカ型と並び感染力が強いと言われているのが、ブラジル型変異種です。

 

医学ジャーナル Cell 誌掲載の論文では、南アフリカ型にならびにブラジル型変異種に対するワクチン効果が、従来型や英国型に比べて劣ることが指摘されています

www.cell.com

 

ワクチンの有効性

ワクチンの効果が70%であるとか75%であるとの報道を目にすると、残りの25%ないし30%の人は感染すると思うかもしれません。これは間違った解釈です。

 

たとえば、ファイザー製ワクチンが95%効くというとき、治験データは以下のようになります。21、728人のワクチンを打っていないグループからの感染者は162人でした。一方、21,720人のワクチン接種者のなかで感染したのは8人です。8を162で割ると0.049.つまり、ワクチン接種者は非接種者に対し、約5%の人たちが感染するということです。これが95%の有効性という意味です。100人の接種者のうち5人が感染するという意味ではありません。

 

ですから、変異種に対して多少ワクチンの効果が落ちるとしても、その効果は依然として絶大なものといえます。ウィルス変異やブレークスルー感染といった言葉に過剰に反応するのではなく、正確な情報を得ることこそが、この感染症を「正しく恐れる」ことになります。

 

一方で、ワクチン接種者に関しては、多くの人々が摂取を済ませて公衆免疫を社会として獲得するまでは、やはりマスクをつけソーシャルディスタンスを維持するなど適切な行動をとる必要があります。それは、ワクチンを打っても無症状感染の恐れがあるからです。まだワクチンを打っていない未接種者を守るためにも、従来通りの対策は必要といえます。コロナ感染症の終息に向けて、為すべきことは多く残っているのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コロナワクチンは本当に効く?

ブレークスルー感染!

CNNニュースの報道によれば、アメリカのコロナワクチン接種者7700万人のうち、ウィルスに感染した患者数は5800人、そのうち74人が死亡し、396人が入院治療を必要としたそうです。

 

また、ニューズウィーク日本版の報道では、人口のおよそ40%が少なくとも1回のワクチン接種を済ませたミシガン州では感染が収まらず、事態は急速に悪化しているとのことです。

 

 

2度の摂取を済ませた人の間でも感染は見られるとのことで、こうしたケースをブレークスルー感染と呼びます。

 

ケース1

専門家によればブレークスルー感染はきわめて珍しいとのことではありますが、4月10日付のアメリカの文芸誌『ニューヨーカー』では、スタッフライターのマシャ・ゲセンが、自らのブレークスルー感染を報告する記事を書いています。

 

 

簡単にまとめてみましょう。

 

ゲセンはシティで、ガールフレンドのジュリアと息子と3人暮らしです。これまで感染を避けて自粛生活を続けていましたが、3月最初の金曜日、家族でニューヨーク州北部の湖畔で、スケートやクロスカントリースキーなどを楽しみました。

 

片道5時間の往復は自家用車。とくに誰と接することもなかったようです。また、ゲセンは2度のワクチン接種を済ませ、ジュリアも1度目の摂取を受けていました。

 

幼い息子は、家族での一年ぶりの旅に喜んでいたようですが、土曜日には疲れからか、午後になると3時間もの昼寝をしたそうです。目覚めた息子は回復し、日曜日にはスノースポーツを満喫した後、家路につきました。

 

帰りの車で、久しぶりの旅で疲れたのかジュリアはずっと寝ていたとのことで、家に戻るとベッドに直行。半日後に目を覚ましたときには鼻水が止まらず、抗原検査を受けるとコロナウィルス陽性でした。

 

この時点でゲセンは陰性。無症状の息子は陽性。すぐに寝室・洗面所を別にしました。その後数日で、息子はPCR検査で陰性に。そして、発症から10日間ほど苦しんだジュリアも回復しつつあった頃、今度はゲセンに症状が現れ、PCR検査は陽性。

 

すでに2度のワクチン接種を済ませていたゲセンの例は、典型的なブレークスルー感染にあたります。目は腫れ上がり、鼻水は止まらず、嗅覚は機能しません。倦怠感に襲われたものの、ワクチン効果かそれ以上悪化することはありませんでした。

 

ケース2〜4

快復後、ゲセンは周囲に似たような症例がないかと探しはじめます。するとブレークスルー感染をした3人の女性に出会いました。

 

特徴的なのは、3人すべてがこのパンデミックの間、プロフェッショナルでありながらもリモートワークのおかげでほとんど外出もせず、自宅アパートのエレベーターも利用しないといった徹底した自粛生活を送っていたこと。それにもかかわらず感染したのは、ゲセンのように家族に感染者がいたケースが一人。感染した友人と接触していたケースが一人。

 

最後の一人は60歳のアーティストで、2度のワクチン接種後に久々に訪れた画廊で、二重マスクをつけながら会話を交わした友人が後日、陽性と判明。念のために受けたPCR検査で陽性となったケースです。

 

幸い3人とも重症化はしなかったものの、発症後ひと月を経てなお倦怠感に苦しんでいるケースもあります。

 

ワクチン効果だけでは……

結局のところ、ワクチンは効くのでしょうか。答えはイエスです。ゲセンらのケースはいずれも重症化していません。それは少なからずワクチンの効果といえます。一方、ワクチンのみで完全に感染を防げるのかというと、それは難しいということになります。マスクの着用や充分な換気、ソーシャルディスタンスの維持など、社会で感染が続いているかぎりは、これまで通りの対策が必要となります。

 

それでも、やがて集団免疫が達成されれば、そうした感染予防のレベルを徐々に落としていくことが期待されます。摂取率が60%に近づき、1月のピーク時には1日7000人を超えていた新規感染者数が、現在では200人を切ってきたイスラエルがその先行例です。同国では現在、経済活動もほぼ再開しています。

 

一方で、人口500万人弱でワクチン接種者がまだ10万人程度ながら、日々の新規感染者を10人以下に抑えているニュージーランドや、人口2500万人強ワクチン接種率5%で新規感染20人以下のオーストラリアなど、ワクチンに頼らずとも徹底的な封じ込めを実践してきた国もあります。

 

ワクチン供給が安定化し、世界レベルで公衆免疫が達成されるまでは、私たち一人ひとりの行動が感染抑制の重要な要素であるといえます。

 

 

 

 

コロナウィルスは空気感染する?

すでにご存じの方もいるかもしれませんが、2021年4月15日付の医学ジャーナル『ランセット』誌で、コロナウィルスが空気感染する10の科学的根拠を示すコメントが発表されています。

 

以下、簡単にまとめてみます。

 

1.介護施設、コンサート等室内イベント、クルーズ船等で起きてきたクラスター感染は、病源者から比較的離れた距離の人にもウィルスを広めてきた。

2.隔離用ホテル等で、直接接することのなかった人にも感染が広まった。

3.咳込むなどの症状のない感染者からもウィルスが広まった形跡がある。

4.感染は屋外よりも屋内で起きることが多く、室内換気を徹底すれば感染リスクは低くなる。

5.感染予防を徹底してきた医療機関でも、院内感染が報告されている。

6.ウィルスは1.1時間の半減期で、空気中では最大3時間まで感染性を保つとの研究結果がある。

7.空気清浄フィルターや空気ダクトに付着したウィルスが確認されている。

8.空気ダクトでつながった異なる檻に入れられた動物間で感染が起きている。

9.空気感染を否定する有力な証拠がない。

10.飛沫感染等を証明する証拠が限られている。

 

日本では、エアロゾル感染というかたちで長く認識されてきており、それは事実上の空気感染だったといえます。よって、感染予防対策が急に変わるものではないと推測されます。ただ、より感染力の強い変異型ウィルスの蔓延を考慮すれば、これまで以上に対策を徹底することが大切です。防御性の高いマスクの着用、適切な換気、密を避けることの徹底、室内にいる時間を必要最小限にすることなどが、これにあたります。

 

アメリカで今いわれているのは、"Keep VMD"。Vはワクチン、Mはマスク、Dはディスタンスです。期待のワクチンですが、地道な感染対策もあってはじめて手強いウィルスを抑制できるということでしょう。